第一回の試合分析は2021年5月16日(日)に行われた明治安田生命J3リーグ第8節 Y.S.C.C.横浜対テゲバジャーロ宮崎です。
第7節を終えた段階でホームのY.S.C.C.横浜(以下、YS横浜)は勝ち無しの14位と苦しい状況が続きます。
一方のテゲバジャーロ宮崎(以下、宮崎)はここまで4勝の4位と、昇格組として健闘しています。
スターティングメンバーから確認します。
YS横浜は中盤ダイヤモンドの4-4-2、宮崎は中盤フラットな4-4-2です。
私もそれなりにフットボールの試合を見てきていますが、中盤がダイヤモンドのシステムを使うチームは最近ではあまり見たことがありません(04-05のACミランが中盤ダイアモンドだった気が…)。ボランチが一枚では守備に不安がありそうですが、その辺りをチームとしてどうカバーしているのかにも注目したいと思います。
(試合のスタッツはこちら)
【公式】YS横浜vs宮崎の試合結果・データ(明治安田生命J3リーグ第8節:2021年5月16日):Jリーグ.jp
ビルドアップにおける両チームの特徴
両チーム共にショートパスを繋いで攻めることを基本としている戦術ですが、パスのテンポと縦へのスピード感には差がありました。
YS横浜のビルドアップは後ろからゆっくり繋いで前進していくという狙いです。無理に長いボールを入れたり、リスクを負った選択はせず、丁寧に繋いでいきます。
エリア間のパス図を見ると顕著ですが、最終ラインでの横向きのパス、中盤から後ろ向きのパスが目立ちます。アタッキングエリアでのパスが極端に少ないことが読み取れます。
一方の宮崎も後ろから繋いでいくというコンセプトは同じですが、より手数をかけずに縦に速い攻撃を目指している印象を受けました。
こちらもデータを見ると、YS横浜よりもパスの数は少ないですが、アタッキングエリアへ効果的にボールを運ぶことが出来ています。
ここまで見てわかるように、YS横浜はリスクを回避したゆっくりとしたパスサッカー、宮崎はハイテンポのパスサッカーを展開しています。
では、実際にこの戦術がどのような効果をもたらしていたかを見ていきます。
YS横浜の遅攻とサイドで捕まえる宮崎
YS横浜の自陣でのビルドアップ時の最終ラインは3枚。3宗近が左に、5池ヶ谷が中央、23船橋が右に入って、左サイドバックの33一宮が一列前へ上がります。最終ラインの3枚に4土舘が絡んで組み立てる形です。
ただし、これ以外にも3+1の形で可変でビルドアップしています。
3宗近、5池ヶ谷、33一宮の3枚で回す形や、後半になると4土舘がCBの間に落ちる形(その場合は8吉田が+1の役割)も増えました。
可変的なビルドアップで相手のマークを錯乱させる狙いがあると思いますが、この試合ではあまり効果的とは思えませんでした。
YS横浜のビルドアップ時、宮崎は一度セットして4-4-2のブロックを作ります。中央を固めて、両CBに対しては向きを制限するような形でプレスをかけてサイドに追いやっていきます。これはYS横浜のビルドアップの形式によらず、サイドに出た瞬間を狙ってプレスの強度を上げ、ボールを回収する狙いがありました。宮崎はこの守備時の連携が良く、サイドに追い込んで回収という狙いをたびたび成功させていました。
YS横浜はサイドにボールが入った際に追いやられる形となり、手詰まりになってしまっていました。それでも一貫してパスを繋いで前進する姿勢を貫いていたので、チームコンセプトとしては選手間で意識の統一はされているのだと思います。
ビルドアップと個人技術
YS横浜はビルドアップ時にスペースがある場合は、3宗近がドリブルで持ち上がる場合が多く見られました。ただし、対面する相手を外して運ぶ技術は5池ヶ谷の方が上で(40:28付近、63:24付近のシーン)相手を一つ外して前に運べるため、5池ヶ谷が持ち上がるシーン方が結果的にチャンスを生み出していました。
これはもしかすると宮崎もリサーチ済みで、あえて左側からプレスをかけ、3宗近をフリーにし、5池ヶ谷に運ばせることを防いでいたのかもしてません(そこまで考えていたかどうかは不明ですが)。
宮崎のダイレクトプレー
前述のとおり、宮崎もボールを後ろから繋いでいくスタイルですが、ボール保持率を高めて主導権を握るというよりは、テンポよく短いパスを繋いで縦へ縦へ攻めていくというチームです。チーム全体の技術も高く、ダイレクトプレーやワンツーを使ってチャンスを作ったシーンが多くありました。
チームのスタイルを象徴するかのようなシーンが1点目のゴールシーンになります。
セカンドボールを拾った7千布が21大熊へ預けると、21大熊→18渡邊→17前田→25梅田と全てダイレクトで繋ぎ、ハーフスペースに侵入してきた18渡邊が再度ボールを受け、3宗近をかわして見事なシュートを決めました。
また、このシーン以外にも後述の23:18付近のシーンなど、主に左サイドからコンビネーションで崩していく機会が多く、宮崎の攻撃のストロングポイントになっています。
先制ゴールのシーンからもわかるように、宮崎は縦への意識とハイテンポを実現させる確かな技術を持ったチームと言えるでしょう。
後手に回るYS横浜の守備
この先制点のシーン、YS横浜もプレスをかけにいってはいますが、相手選手がボールを受けてから動き出しており、後手に回ってしまっていました。
相手に対して正面から付いて行って、ギリギリのところまで食い付けられてから剥がされるというのは、体の方向とスピードの面からしてかなり不利な状況に陥ります。
YS横浜はネガティブトランジション時には比較的速めにプレスをかけて奪い返しに行くスタイルのチームですが、プレスががはまらずに前進されてしまう場面はこの得点シーン以外にも多く見受けられました。
23:18付近のシーンですが、3井原と33代に対してYS横浜のツートップがプレスをかけに行きます。大外の21大熊にボールが入った時、10柳が寄せていますが、出だしが遅く、食い付かされてからボールを出されてしまっています。23船橋が18渡邊に寄せている場面も同様です。
このようなプレスのズレはツートップと2列目の連動ができていないことが要因の一つです。というか、YS横浜はボールの取り所が定まっておらず、むやみやたらとボールを追いかけているような印象でした。守備における強度と洗練度は宮崎の方が上だったように思えます。
また、このシーンでは冒頭で触れたボランチ脇のスペースを使われて前進されています。YS横浜のシステムの都合上、サイドハーフが相手サイドバックに対してプレスをかけに行くと、アンカー脇のスペースが空いてしまいます。このスペースを捨ててまでサイドバックに対してプレスに行っていますが、連動制に乏しいため宮崎のサイドバックに自由を与えてしまい、結果としてアンカー脇スペースを再三に突かれて前進されていた印象です。
もしサイドにプレスをかけに行く場合は、このスペースはボランチの4土舘と逆サイドのサイドハーフがスライドして埋めることが理想だと個人的には思いますが、この試合はあまりそういった動きはありませんでした。
守備時に8吉田は右サイドまで流れてくることもありましたが、マンマーク気味に着いている中でのプレーで、スペースを埋めるような意識は低いのかと思いました。
7神田の投入
試合全体としてYS横浜のチャンスは少なかったですが、後方からのカウンターでダイレクトプレーが成功した際は、ゴール前までボールを運んでくシーンが何度かありました。しかし、チームとしてフィニッシュの意識が低く、前半ほとんどシュートを打てなかったのは気になりました。
今一つ相手に脅威を与えることができない中、YS横浜は58分に7神田を投入します。この7神田は技術力に優れ、後半からの出場でチーム最多の3本のシュートを打ってチームを活性化させていた印象です。
この試合とは直接関係ありませんが、7神田は9節以降でスタメン出場した3試合全てチームが勝利しており(12節終了時点)、攻撃的なチームにおいて影響度が高い選手と言えそうです。
まとめ
なんだかYS横浜のダメ出しが多くなってしまいましたが、相手が洗練されたサッカーを見せていた宮崎だったので苦戦していた点もあります。とはいえ多くの部分で相手を上回った宮崎が終始試合を支配していました。順位通りの結果になった、というのが率直な感想です。
両チームのポイントと個人的に気になった選手を挙げて、今回の試合分析は終わりたいと思います。
両チームのポイント
- 後ろから丁寧に繋いで攻めあがっていくスタイルだが、パスのテンポが上がらずポゼッションからチャンスが作れなかった
- 守備時のFWと二列目以降のプレスの連動性には改善の余地あり
宮崎
- 攻撃はテンポ良く縦に速くを実践してゴールを奪う
- 奪われた際はセットして守備、サイドに追い込んで奪う狙いが実践できていた
個人的に気になった選手
- 神田夢実(YS横浜):技術力に優れ、攻撃にアクセントを加えるプレーヤー。スタメンで使った方が良いと思いました。
- 植田峻佑(宮崎):守備で目立ったシーンは多くありませんでしたが、素晴らしいフィードを何本か見せていました。あの足元の技術は上のカテゴリーでも通用しそう。
以上