第二回目の分析は2021年6月13日(日)に行われた明治安田生命J3リーグ第11節 カターレ富山対ロアッソ熊本です。
試合開始前の時点でカターレ富山(以下、富山)が首位、ロアッソ熊本(以下、熊本)が5位ということで上位対決となりました。
通算成績は富山の2勝10敗5分で、富山からするとかなり相性の悪い相手と言えます。
スターティングメンバーから確認します。
両チーム共に3-3-2-2システムを採用してきました。
同じシステム同士ということでミラーゲームとなりますが、両チームの攻守におけるポジショニングはかなり異なる形でした。今回はその辺りを詳しく見ていきます。
富山の攻撃パターン
富山の攻撃は結構シンプルで、最終ラインからのロングフィードを9大野が収めて付近を動く10花井や22椎名、7佐々木などが絡んで崩すことが多かったです。この9大野は相手DFを背負ってのポストプレーが非常に上手く、富山の攻撃の時間を作れる選手です。リーグ全体での敵陣空中戦ポイントで4位(7/5現在)を誇る屈強なFWのポストプレーは富山のストロングポイントと言えます。
また10花井もテクニックがあり、足元の技術でボールをキープできる選手です。富山は空中戦でも地上戦でも時間が作れるこの二人が組み立てのキーマンとなりそうです。
もう一点、富山の攻撃の強みは10花井の正確なセットプレーです。先制ゴールのシーン以外にも17:13付近のセットプレーでも非常に質の高いボールを供給しています。
9大野のポストで相手を背にしてファウルを貰い、10花井が正確なボールでアシストするというのもパターンの1つと言えます。
ポジショナルな熊本の可変システム
一方、敵陣ポゼッション率がリーグ全体で1位を誇る熊本は、データの通りボール保持の時間を高めながら崩していくことが狙いです。
攻撃時の熊本は4-4-1-1に近い陣形を取っていました。左WBの7岩下が降りて後ろを4枚にし、2列目の19東出と18杉山がサイドに出て幅を取ります。さらに、右WBの8上村が中に絞って6河原とダブルボランチのような形を取るのが基本形です。
この際、8上村を見る役割の富山の7佐々木は引っ張られて中に入ってくるため、2黒木の前のスペースが空いています。ここをうまく利用して前進するシーンも見受けられました。
ただし、8上村はボランチに入るだけでなく、39:03付近、52:32付近のシーンなど、右サイドのハーフレーンで2黒木がボールを保持する場合に受け手として幅を取る役割を担う事もあります。臨機応変なポジショニングによって熊本の攻撃をスムーズに回している印象でした。
また、左サイドで幅を取る役割も、ボールの回し方によって変化をつけています。
例えば、右サイドでのボール保持時、CB経由で大外を周って左サイドに展開する場合は上記のように7岩下が一列下がって幅を取ります。
同じく右サイドでの保持時、ハーフウェイラインより前方まで進んでそこから中央を経由して左に展開するパターンでは、7岩下が中央に絞ったポジションを取り、19東出はワイドに開いた位置をスタートポジションとしています。
状況に応じて適切なポジショニングをとり、スペースを有効活用する。熊本はポジショナルなフットボールを展開していると言えるでしょう。
ボールサイドへの富山のプレッシング
熊本のビルドアップに対して富山はボールサイドに人を集めて奪う狙いを見せていました。9:36付近のシーンでは、熊本が自陣右サイドでボールキープしていますが、富山の中盤より前の選手は左に圧縮してポジションを取っています。
圧縮したプレッシングは逆サイドに大きなスペースを空けてしまいます。これは11人でスペースを埋めるというフットボールの構造上、どうしても生じてしまう現象なので、空いたスペースに対してどう対処するかがカギになります。
リトリート時の富山の守備の狙い
富山は同サイドへのプレッシングからの奪取は一つの狙いとしていますが、上記のようにセンターバックを経由して逆サイドへ展開された場合、あるいは最終ラインでのビルドアップに対応する場合は一度引いてセットした守備を見せていました。富山のファーストディフェンダーは相手CBに対しては逆サイドへのコースを限定するくらいで、奪いにいくプレスをかけることはしません。
熊本のビルドアップからの攻撃に対しての富山の狙いはサイドで奪うことですので、CBからのサイドへのパスを遮断するような動きはなく、むしろそのパスは許容し、サイドに出てから前を向かせないような守備で対応していました。これはある程度狙い通りにできていたと思います。
6河原をフリーにする富山
1点、富山の守備で気になるポイントを上げるとすれば熊本の6河原をフリーにさせすぎていた点です。
展開力や判断力に優れるこのアンカーは、熊本のビルドアップ時に度々フリーになってボールを受けていました。見ていて不自然なくらいに6河原はフリーになるシーンが多かったので、富山はわざとフリーにしているのかと思ったくらいですが、熊本のチャンスはほとんどがこのフリーの6河原を経由して生まれていたのを考えると、わざとフリーにしているとは考えられませんでした。
前述のように、富山が一方のサイドに圧縮してできたスペースを熊本は有効に使いたいはずです。そこでこのフリーの6河原を経由して逆サイドに展開されるケースが多くありました。富山は熊本のセンターバックがボールを持った時に10花井か9大野がプレスにいきますが、6河原へのパスコースを切らないままプレスにいくため、度々ここがフリーになっていました。
後半割と早めの時間帯で2トップを二人共交代しているのは、その辺りを修正したかったのかもしれません(これはあくまで個人的な予想ですが)。
70分を過ぎるくらいで、富山のDFラインが押し上げられなくなり中盤にスペースが生まれるようになると、熊本は6河原を経由せずともサイドの高い位置まで楽にボールを運べるようになります。
このあたりから熊本が押し込む展開が続き、78分には右サイドの高い位置まで簡単に運び、18杉山がマイナスのクロスを上げてペナルティーエリアやや後方で待ち構えていた7岩下がダイレクトでシュートを放ち、熊本が同点に追いつきました。
まとめ
富山は早い時間に先制したことにより、落ち着いて守備に入ることができたと思います。試合は終始熊本がボールを保持する展開が続き、熊本が主導権を握っているように見えましたが、富山は要所を抑えて決定機を作らせませんでした。
終盤は富山のDFラインが下がり、深い位置まで熊本がボールを運べるようになってから同点弾が生まれ、1-1のドローという結果になりました。
システムは同じですが、両チームのコンセプトの違いが明確に分かる面白いゲームでした。
最後に両チームのポイントと個人的に気になった選手を挙げて、今回の試合分析は終わりたいと思います。
富山
- 攻撃は素早く前線に預け、9大野のポストや10花井の個人技で時間を作り、追い越してくる2列目以降の選手とのコンビで崩す。
- 守備はサイドへ圧縮したプレスを見せる。
熊本
- 自分達でアクションを起こす。ボールを保持してリズムを作るチーム。
- 可変システムでスペースを有効利用。マークを混乱させる。
個人的に気になった選手
- 大野耀平(富山FW):とにかくポストが上手い。後半早い時間で交代するまで殆どのポストプレーに成功していた。空中戦の強さもあるが、地上でのキープ力もある。
- 河原創(熊本MF):小柄ながら対人に強く、攻撃では正確な技術と判断力で起点となるチームの中心選手。大卒2年目でキャプテンを任され、チームからも信頼されている証拠。上のカテゴリーでプレーするポテンシャルは十分にある。
以上