サッカーの戦術の話

個人的に気になったサッカー主にJ1,J3,プレミアの試合を分析します。

【分析】2021 J3第17節 Y.S.C.C.横浜 vs FC岐阜

第三回の試合分析は2021年9月4日(土)に行われた明治安田生命J3リーグ第17節 Y.S.C.C.横浜FC岐阜です。J3は中断期間があったので、久々の分析となります。

今季二度目の対戦となるこのカード、前回対戦はY.S.C.C.横浜(以下、YS横浜)がアウェーでFC岐阜(以下、岐阜)を下して今季の初勝利を飾っています。

YS横浜は前節は試合がなかったため、再開後の初戦となります。岐阜は再開初戦となった前節の福島ユナイテッド戦で0-4の大敗を喫しました。

16節までの順位は岐阜が5位、YS横浜が10位です。

 

では、スターティングメンバーから確認します。

f:id:yyyyyy123456:20211209010819p:plain

スタメン(YS横浜-岐阜)

前回の分析時はYS横浜は4バックでしたが、今回は4土舘をリベロに置いた3バックを採用。

一方の岐阜は得点ランク2位の10川西や、アシストランク上位の41吉濱をベンチからも外すといった大胆なメンバー選考をしてきました。

3バック採用の利点

以前YS横浜の試合を見たときは、4土舘がアンカーの4バックを採用していました。4土舘はキックの質が高く、特に長短のロングフィードYS横浜の攻撃の起点となっている反面、アンカーとして広い範囲をカバーしなければならない上で、守備時のポジショニングの悪さが大きな欠点となっていました。

その意味でも4土舘をリベロに置くことはポジショニングの悪さという欠点をカバーし、かつGKからのビルドアップ時に攻撃の起点に素早くなれるという、まさに適材適所の配置と言えるでしょう。

両チームのスタイル

YS横浜は自陣から丁寧にビルドアップしてボールを運んでいくチームです。自陣ポゼッションの指数がリーグで3位と数値にも表れています。

一方の岐阜は自陣ポゼッション、敵陣ポゼッションの指数がリーグでワースト。また、ショートカウンターの指数がリーグ2位です。よって、岐阜は相手にある程度ボールを持たせながら、前線で奪って素早くゴールを奪うことが狙いです。

www.football-lab.jp

では、実際に試合の内容を分析していきます。

 

保持VS非保持

予想通りYS横浜が圧倒的にボールを支配する展開となりました。

岐阜は非保持時は5-3-2のラインを引いて守備をします。YS横浜のビルドアップは基本的に4土舘から始まるのですが、この選手がボールを持った時、前線の2人はまずはコースを消す立ち位置を取ります。中央からサイドにボールが出た際は23大西、8中島を含め人数をかけてプレスに行きます。また、YS横浜のビルドアップに対して、岐阜の14本田がYS横浜の6佐藤にマンマークをしているようにも見えました。

f:id:yyyyyy123456:20211209015609p:plain

非保持・岐阜のプレス

つまり、岐阜としてはYS横浜のビルドアップの開始点である4土舘からボールが出るのをスイッチとして、前線で素早いプレスをかけて奪うことが狙いです。実際に岐阜はコースを限定しながら2列目が連動してプレスをかけることでロングボールを蹴らせたり、2列目で奪うシーンも何度か見られました。

ただし、岐阜はプレスのスイッチを入れると、中盤より前の選手5人がかなり前がかりになりますので、MF-DFのライン間にスペースができます。YS横浜は岐阜の前線からのプレスを逆手に取り、低い位置からこのライン間のスペースに楔のパスを狙うようになります。

10:21付近のシーンでは、YS横浜の6佐藤が岐阜14本田を引きつけながら下りていき、スペースを空け、そこを7神田が使うことで攻撃に繋げています。

f:id:yyyyyy123456:20211209010834p:plain

YS横浜のプレス回避

上記の例ではMF-DF間にスペースが生まれるという話ですが、これはそもそも岐阜の中盤より前の5人が前がかりになることが前提になります。

実際に、YS横浜はこのスペースを狙ってはいるものの、惜しい場面でカットされてしまうなど、攻撃にうまく繋げられないシーンもありました(8:08付近、28:40付近など)。

中盤の数的優位を狙う

こうして基本的にはYS横浜がボールを保持しながら試合を進めていく中、徐々にYS横浜は岐阜の守備の構造上の穴を突くようなプレーが増えてきます。

37:06付近のシーンです。両WBが高いポジションをとることで相手のWBをピン止めし、空いた2列目のスペースに7神田に加え、18柳園も下りてきます。これでYS横浜は3-4-3のような形でポジションをとります。

f:id:yyyyyy123456:20211209010824p:plain

中盤3枚のサイドのスペースを狙う

岐阜の中盤3枚は4枚のMFを見ることになり、数的不利に陥ります。このシーンでは7神田が下りて受けることで、時間とスペースを確保した状態で前向きにプレーすることが可能となります。10:21付近のシーンと異なるのは、2トップの一角も中盤まで下りて数的優位を作ることで、相手のプレスの出来によらず攻撃をスタートすることができる点です。

前半30を過ぎたあたりから18柳園が左の中盤に下りるようになったので、YS横浜は意図的にビルドアップ時のやり方を変えていたと考えています。後半に入るとFC岐阜の立て続けのカウンターによって2失点し、18柳園に代えて30菊谷を入れ、この狙いをよりはっきりとさせていました。

要所で仕留める岐阜

前述の中盤のスペースを自由に使えるようになり、後半は再三YS横浜が攻め立てる展開となりましたが、結果だけ見れば0-3と岐阜の圧勝となりました。

試合を通してもチャンスの数はYS横浜が圧倒していました。ゴール期待値もYS横浜が2.49、岐阜が1.72であり、YS横浜が勝っていてもおかしくありませんでした。

理屈で解説するのは難しいのですが、岐阜はチャンスの数自体は少ないものの、得点シーンなどを見ると攻守の切り替えの速さや圧力をかけるタイミングの良さなどが光りました。

例えば先制点のシーンでは、ボール奪取後、数的優位を作れると見るや中盤の選手が一斉にスプリントしてプレーのスピードを上げています。この辺りの判断力は岐阜の方が上でした。

あと、岐阜は前半は殆ど繋ぐシーンが皆無でしたが、得点シーンではショートパスを繋いでチャンスを作っていました。あえて前半はロングボール主体であることを相手に意識させて、相手の状況を見てここぞというときショートパスから素早い攻撃を展開していたのかなと思いました。

まとめ

チームのスタイルがそのまま出た試合展開になりました。

YS横浜がボールを握るも、前線の激しいプレスで中々攻め込ませない岐阜。YS横浜はビルドアップの構造を変えて中盤を制圧しますが、トランジションスピードが得点に直結し、カウンターから得点を重ねた岐阜が圧勝する結果となりました。

 

最後に両チームのポイントと個人的に気になった選手を挙げて、今回の試合分析は終わりたいと思います。

 

YS横浜

・攻撃のキーマンは4土館と7神田。特にビルドアップの開始点は4土館となることがほとんど。

ウイングバックが高い位置を取り、中盤を4人にして有効な場面を作れるようにはなったが、トランジション部分に課題がある。

岐阜

・非保持時は中盤より前が精力的にプレスをかけて前で奪うことが狙い。

・攻撃はほとんどロングボール主体だが、自分たちの形で奪うことに成功した時はショートパスで素早く運ぶことも。

トランジションが速く、奪ってから人数をかけて素早い攻撃で仕留める。

 

個人的に気になった選手

・土館賢人(YS横浜DF)

ビルドアップの全権を担っていた。長短織り交ぜたキックの質は眼を見張るものがある。個人的には3バックの中央は向いてると思う。課題は守備力。

 

・深堀隼平(岐阜FW)

エースの川西が怪我?で欠場の中いきなり2得点に絡む活躍を見せた。ハードワークを厭わず、後半最後までボールを追いかけた。少ないチャンスを大事にするチームにとって彼の決定力は今後も活かされると思う。

 

以上