サッカーの戦術の話

個人的に気になったサッカー主にJ1,J3,プレミアの試合を分析します。

【分析】2022 J3第9節 AC長野パルセイロ vs 松本山雅FC

また期間が空いてしまいましたが、今回は5月15日に行われたAC長野パルセイロ松本山雅FCの試合を分析していきます。
Jリーグ史上初の信州ダービー」という、文字を見るだけでもサッカーファンならワクワクしてしまう舞台です。ちなみに、長野と松本の土地柄的な因縁でいうと明治時代の廃藩置県まで遡るそうで、サッカークラブとしてのAC長野パルセイロ(以下、長野)と松本山雅FC(以下、松本)は北信越リーグ時代からお互いをライバル視する関係だったらしいですね。
両チームの古くからのファン・サポーターは、Jリーグの舞台でこのダービーマッチが観れるという事実に胸が熱くなったことでしょう。こういう熱量のある試合を観ると、「日本にJリーグがあるって素晴らしい!」と思ってしまう筆者です。

試合開始前の時点で松本が2位、長野が5位と、今季ここまで好調な両チームの対戦は、要所におけるデュエルの激しさが、まさに両者譲れないダービーマッチであったことを物語っていました。
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さて、前置きが長くなりましたが、いつものようにスタメンから確認していきます。

長野×松本スタメン

両チームともに今季は3バックと4バックを併用しています。松本は前節怪我から復帰した安東が今季初スタメンで、パウリーニョとコンビを組みます。長野は本来ウイングのポジションに入ることの多い森川をIH、三田をWBで起用してきました。
このシステムを踏まえて局面ごとに構造を見ていきます。

長野攻撃

長野のセンターバックは相手のプレスがないので比較的容易に持ち上がることができます。そこに松本のSHがプレスをかけに来ると、WBが空くのでサイドで数的優位を作ることができます。松本のSHのプレスのタイミングが鍵で、間に合えば長野は前にボールが送れず、一度後ろに下げることになります(5:46)。後ろから前進する際は、左の秋山は上手く持ち運びが出来ていましたが、右の池ヶ谷はもう少し状況に応じて運んで前進できるとスムーズに攻撃できたかもしれないです(23:44)。
松本のプレスラインが全体的に前がかりになると、後方から対角線上にフィードを送り、深さと幅を取ったWBが高い位置で仕掛けるというのが狙いです(5:53、14:18、21:14)。また、序盤はアンカーの住永は小松にマンマーク気味で付かれており、中々DFラインからパスを引き出せずに苦戦していました(7:48)。GKからの長いボールを敵陣後方のスペース目掛けて放り込む時は、左前方のスペースを狙って、逆サイドから三田が斜めに走りこんでいくのも特徴です(33:09)。

長野攻撃パターン

これは以前の記事でも書いたのですが、長野の攻撃は左サイドに偏りがちです。スタメンの森川、水谷や途中出場のデュークもそうですが、左サイドでクオリティーを発揮する選手が多く在籍しています。フィードの狙いも左奥のスペースが多く、チームとして左サイドの攻略を狙っているように思えました。
長野は上記のような組み立てから、攻撃自体はシンプルにサイドを攻めてクロスというパターンが多かったですが、崩し切って決定的なシーンを迎えることは中々できませんでした。公式サイトのクロス成功率が0%という結果に終わっており、松本に封じ込まれた印象があります。

長野守備

長野は5-3-2でブロックを形成します。構造上、松本のサイドの低い位置に降りていくボランチ(主に安東)にはプレスにはいけないですが、そこは割り切っているように見えました。基本的にはFWの二人は中央で受けようとする松本のボランチ(主にパウリーニョ)を消しながらプレスをかけ、中を閉じてサイドに追いやって奪うのが狙いです。今季シュタルフ監督になってからは一貫している狙いだと思います。10:08のシーンなどはまさに狙い通りに奪いきっています。
長野は一度構えてサイドに誘導する守備はある程度思い通りにできてはいましたが、攻撃から守備に切り替わった際にショートカウンターからフィニッシュに持ち込まれるシーンが多く目立ったのが気になりました。

松本攻撃

最終ラインは3枚+1の形でビルドアップするのが基本系です。また、特徴として、両SHがかなり内側のレーンに立ち、SBが高い位置で幅を取ります。どちらかのサイドにボールがある場合は、ボールサイド側に逆サイドのSHが極端に寄った立ち位置を取ります。ただ、ボール回しのタイミングと方向によってSHが中央に立つか、外に開いて落ちるサポートをするか使い分けているようです。

松本保持時の構造

前述のとおり、松本の攻撃時はSHが内側に入るのが特徴ですが、敵陣まで侵入した際は逆サイドのサポートに入ることもあります。それが顕著に出たシーンが29:16のシーンです。右サイドで前と安東がパス交換する中、左サイドの菊井が右サイドの深い位置までランニングしてパスレシーブします。途中まで菊井には長野の佐藤が付いていましたが、逆サイドまでは付いていくことができず、喜岡がスライドして対応しています。これにより中央で2vs2の局面を作っています。結果としてフィニッシュまでは持ち込めませんでしたが、松本のSHのサポートによる狙いを現わしているシーンでした。

松本29:16(逆サイドまで流れる菊井)

ポジティブトランジション時は中盤で奪ったら素早く前線の2トップに付けます(6:07、7:18、7:55、34:27)。特に前線の横山は動き出しがとても速く、ボールを受け取ったらシュートを打つことを最優先しています。19:14の菊井のシーンもそうですが、松本は個人の力でフィニッシュまで持ち込む力のある選手が揃っています。
この試合はトランジションからのショートカウンターで惜しいシーンを何度か作っていました。素早く前線に送って手数をかけずにフィニッシュに持ち込むという狙いはできていたと思います。ただ、あと一歩という印象でしたが、ゴールは奪えず。ゴール期待値的にも得点が入っていてもおかしくなかった試合でした。

松本守備

攻守問わず松本の中盤は4人が目まぐるしく立ち位置を変えています。基本陣形はあるものの、近い選手が決まった場所に立つようにすれば楽!ということを体現しているようでした。17:38のプレスのシーンではSHの菊井が中央でアンカーをケアして、ボランチパウリーニョがサイドへ出てプレスをかけに行っています。
54:06のカウンターのシーンは安藤がサイドのカバーに行っています。

松本の守備

松本はゴールキックからのビルドアップや、敵陣のPAラインの深さくらいまで相手を押し下げた状態ではプレスを狙いに行きますが、基本的には構えて守備をしていました。自陣のバイタルエリアをコンパクトに保ち、ライン間で受けさせないようにはできていたと思います。ダービーということもあってか、先に失点したくはないという思いがあったのかもしれません。



とここまで戦術とか構造をベースに書いていますが、それ以上に両チームとも球際や競り合いで激しさを見せ、終始熱量を帯びた熱いプレーを楽しませてもらいました。スタジアムの雰囲気も含め、これぞダービーといった試合で非常に満足感のあるスコアレスドローでした。

(今回は長くなってしまったので気になった選手はなしにします)

以上

(参考)
【公式】長野vs松本の試合結果・データ(明治安田生命J3リーグ第9節:2022年5月15日):Jリーグ.jp
松本山雅FC 2022マッチレポート | 5月15日 vs 長野 | データによってサッカーはもっと輝く | Football LAB
J3 第9節 長野 vs 松本のデータ一覧 | SPORTERIA