サッカーの戦術の話

個人的に気になったサッカー主にJ1,J3,プレミアの試合を分析します。

【分析】2024 J1第1節 セレッソ大阪 vs FC東京

2024シーズンのJリーグが開幕したということで、久々に記事にしてみようと思います。

J1は何試合か見たのですが、面白そうだなと思ったセレッソ大阪 vs FC東京の試合について気になった点を書いてみました。

 

どちらも積極的に補強に動いた今オフの両チーム。新戦力の活躍もポイントになりました。

ハイライトはこちらから。

 

【セレッソ大阪×FC東京|ハイライト】2024明治安田J1リーグ第1節 | 2024シーズン|Jリーグ - YouTube

 

ではスターティングメンバーを確認します。f:id:yyyyyy123456:20240303195032j:image

セレッソ登里享平、田中駿汰、ルーカス・フェルナンデスが新加入組でスタメン出場。FC東京は荒木遼太郎がトップ下に入りました。

 

セレッソ大阪は登里が中盤インサイドに入ることでビルドアップをサポートします。3-2-5の形で、インサイドハーフの香川と奥埜は下がってフォローしません。インサイドハーフが高い位置を取ることで前線に数的有利を作ることが狙っていました。東京のボランチ2人がセレッソの田中と登里に引っ張られるのでその裏のスペースでセカンドボールを回収する形です。

6:04頃の毎熊から香川への展開はまさにこの狙いが出ています。また、オフサイドにはなりましたが、15:20頃のシーンは後方で保持しておびき寄せてから展開してチャンスメイクしたシーンでした。f:id:yyyyyy123456:20240303195049j:image

東京は3-2の保持に対して距離を詰めれば飛ばされてプレス回避され、ボランチが引けば前進され、中々守備がハマらずに苦戦していた印象です。

また、セレッソの右サイドの毎熊とルーカス・フェルナンデスのコンビネーションが非常に良く、お互いに欲しいタイミングや場所が解っており、ポジションを入れ替えながらスムーズに攻撃を活性化させていました。先制ゴールのシーンもその右サイドの攻撃から生まれたものでした。

 

FC東京は攻撃の場面でもセレッソのハイプレスに苦しめられていました。セレッソは敵陣深い位置での横パスに対してサイドに追い込んでいくようにプレスを掛けていきます。リトリート時は俵積田には毎熊が、バングーナガンデにはルーカス・フェルナンデスがマークに着くのですが、プレッシング時はルーカスが内側からトレヴィザンまで出ていきます。セレッソは全体がスライドして、毎熊はバングーナガンデをマークし、余った俵積田は鳥海が対応する形で圧縮します。

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この形に追い込まれるとFC東京は中々前進できず、無理な体勢で蹴らされる、あるいは掻っ攫われるシーンが見られました。

 

中々苦戦していたFC東京ですが、サイドへの展開から縦の揺さぶりでフリーになった松木が、ほぼゼロステップで無回転ミドル。荒木がコースを変えて同点に追い付きます。

後半にセットプレーからセレッソが突き放しますが、ジャジャ・シルバの超絶個人技からの突破にまたしても荒木が詰めて同点に。

試合は2-2のドローで終えました。

 

攻守の狙いがよく見えたのはセレッソの方だったかなという印象です。

FC東京は縦の意識とサイドからのフィニッシュを狙いに置いてはいましたが、組み立ての段階で苦戦していました。中盤の守備陣形もこれからかなと言ったところ。

 

では個人的に気になった選手を挙げて終わりたいと思います。

登里享平(セレッソ大阪:DF)

カンセロロールならぬ登里ロールで攻撃のバランスを取っていた印象。彼の加入でセレッソの戦術の幅が広がりそうな印象でした。

 

・荒木遼太郎(FC東京:FW)

チャンスが多かったわけではないですが、トップ下の位置からゴール前に絡んで2ゴール。フルシーズン見てみたい選手。

【分析】2023 J1第13節 FC東京 vs 川崎フロンターレ

こんにちは。
今回は、Jリーグ30周年記念試合として国立競技場で開催された多摩川クラシコFC東京×川崎フロンターレを見ていこうと思います。
この試合、平日開催にも関わらず5万6千人を超えるサポーターで埋め尽くされました。平日で5万6千とは凄すぎる...。東京近郊在住で、東京に勤務しているという方が仕事終わりに立ち寄りやすいというのが国立競技場のアクセスのメリットですね。平日にやるならアクセスのしやすさは集客に大きく影響しそうです。

余談はこのくらいにして、スタメンを見ていきましょう。
FC東京はMF松木がU20ワールドカップのため欠場、DF中村も怪我で欠場中です。
川崎は登里が2試合ぶりに復帰しています。高井、永長はU20ワールドカップで欠場となりました。

FC東京×川崎フロンターレ スタメン

両チームの対戦成績ですが、川崎フロンターレが7連勝中と、近年は圧倒しています。

では試合内容を見ていきます。
ハイライトはこちらから
www.youtube.com

ハマった東京の守備

基本的に川崎がボールを握りながら相手を押し込み、FC東京は高い位置でのボール奪取かカウンターで攻撃を構築していく展開が続きます。
FC東京は後ろから丁寧に繋ぐのではなく、裏のスペースを目掛けてフィードを送ります。基本的に攻撃時の矢印は前方が最優先です。守備の局面でも相手の縦パスには対面の選手が前向きにアタックする傾向が強く、攻守において「前へ前へ」というアグレッシブさが窺えました。
FC東京は序盤、ワントップのディエゴ・オリヴェイラがアンカーのシミッチを背中で消すような立ち位置を取り、深い位置では両WGが川崎のCBに外切りでプレスをかけに行きます。そのため、(解説の吉田氏も指摘していましたが、)川崎のSBが空きやすくなります。ただ、FC東京も素早いIHのスライドで川崎のSBに対応しており、川崎も中々ゴール前までボールを運べません。

川崎の深い位置でのビルドアップ

FC東京は守備でいいリズムを作りながら、早い時間に先制します。こぼれ球をつなぎ、東から右サイドでフリーの長友へ展開。中央に人数を配置してマークのずれを誘発し、流れたボールを左でフリーになった徳本が受け、家長をかわしてフィニッシュ。川崎はペナルティエリア内に結構な人数が入っていたため、逆サイドに流れるボールへの対応が少し遅れました。
続く25分、これもFC東京の狙い通りの形で追加点を上げます。シミッチに対して二人がかりでプレスに行ってボールを奪取。すぐさま左サイドを駆け上がった徳本に展開し、折り返しを阿部が詰めました。理想の展開で2点のリードを奪ったFC東京の戦いはパーフェクトと言って良い出来だったと思います。

右→左の展開で好機を作り始める川崎

リードが広がった影響もあってか、FC東京はファーストDFの位置取りはやや低くなり、WGによるCBへのプレスも減ります。4-5-1のラインでブロックを形成することになりますが、それに対して川崎も攻撃に変化を付けてきます。シミッチが左に降りてきて登里が上がったり、大南が外に開いて、山根が内側のレーンを取るような立ち位置です。3-3-4のような形で、人は流動的に変化します。

ミドルゾーンでの川崎保持

川崎は車屋→家長の対角線のフィードが多かったです。右SBの山根が内側をインナーラップすることで、FC東京の左SBの徳本が内側のレーンを気にして外に開いた家長にアプローチするための距離が空いてしまうことも影響したと思います。(あとは自由に動き回る家長がCB脇に降りるシーンもあったので、パスネットワークはそれも影響しているとは思いますが)

川崎・パスネットワーク

川崎は選手の配置を変化させながら、SBのインナーラップからFC東京のCB-SB間を突いた攻撃で好機を創出しています(36:56頃)。このシーンでは右サイドに人を集めて深く侵入してから逆サイドに展開することで、単独突破が得意なマルシーニョに時間とスペースを作っています。
41:22も右サイドで家長が時間を作ると、FC東京の中盤はボールサイドに寄ってきています。FC東京の右IH(小泉)が左サイドに寄っているため、右のCB-SB間をカバーする役割の選手がいないことになります。
上記のように川崎は右で作りながら逆サイドのハーフレーンを使ってチャンスメイクしていました。

3人の中盤の弱点

39分に川崎が1点を返します。中盤でこぼれ球に反応した脇坂がマイボールにすると、間で受けた瀬古がスペースへ運びながらドリブルを開始。ここも長友と木本の間を上手くとった宮代が足元で受け、巧みなステップで相手を外して冷静に流し込みました。FC東京は両WGが高い位置を取っていて、IHも広がってしまっていると中盤に大きなスペースができてしまいます。このFC東京の弱点を上手く突いた瀬古のボールの受け方とドリブルは見事でした。
守備側が間延びしてしまうと中盤の枚数が少ない4-3-3はどうしてもミドルゾーンで相手に主導権を握られてしまいます。失点シーンのFC東京は、スウォビィクがロングボールを蹴った時にもっと素早く最終ラインを押し上げてスペースを埋めたかったですね。

ポイントとなったた脇坂の退場

後半開始早々は東京がシンプルな攻撃からチャンスをいくつか作ります。その流れで得たFKから川崎の脇坂がファウル。一発レッドカードで退場となります。判定的にはどちらともとれるような微妙なプレーでしたが、結局VARからのOFRになってしまったら致し方無いかなと言ったプレーでした。
脇坂は無理に足を出さなくてもよかったと個人的には思いますね。川崎は前半の終盤から良いリズムで相手を動かしながらチャンスを作ることができていたので、11vs11のまま見てみたかった試合でした。

その後の展開

10人になりながらも川崎は負けているので攻めるしかありません。退場直後に中盤の枚数は2枚のままで攻撃のカードを次々と投入し勝負に出ます。
東京はリードしていることに加えて相手よりも一人多いので、少し守備のメンタリティが強くなった印象でした。攻撃時はあまりリスクを負わず、守備は少し重心を後ろに置いていました。
FC東京の守備でちょっと気になったのは途中投入されたアダイウトンの役割が曖昧だったように見えたことです。77:27頃のシーンは、川崎がGKのビルドアップから決定機まで持ち込んでいますが、このシーンはシミッチがフリーになったことからFC東京の守備にズレが生じています。シミッチへのパスコースを消す役割は本来はアダイウトンが担っていたのではないかと思います。
70分過ぎからはラインが下がり始めたFC東京に対し川崎が押し込む時間が増えました。惜しいシーンもありましたが、最後のところでFC東京は粘り強く対応し、ゴールを割らせないといった展開が続きます。GKのスウォビィクの活躍も大きかったですね。
そのままスコアは2-1で試合終了。FC東京にとっては久々の多摩川クラシコ勝利となりました。

試合全体の流れ

川崎がボールを握る展開は予想できましたが、それに対してFC東京はうまく守備ではめ込んで思い通りに試合を進めていました。FC東京は幸先よく2点のリードを奪ったのが大きかったですね。1点返されるも川崎に退場者が出たこともあって落ち着いた試合運びができていたと思います。川崎はやはり退場が痛かった。後半10人でもあれだけ攻撃に持ち込めていたことを考えると、11人のまま戦えていたらまた違った結果だったかもしれません。
5万人を超える観客にとってはアグレッシブな見ごたえのあるゲームだったのではないでしょうか。初めてスタジアムに足を運んだ方もいると思いますが、Jリーグへの興味を少しでも持ってくれたらうれしいですね。

以上

参考:
J1 第13節 FC東京 vs 川崎Fのデータ一覧 | SPORTERIA

【分析】2023 J3第1節 テゲバジャーロ宮崎 vs AC長野パルセイロ

2023シーズンのJ3が開幕しました。
このブログを開始してから三度目の開幕を迎えることになりました。

分析対象の試合は適当に選んでいるつもりですが、AC長野パルセイロテゲバジャーロ宮崎は過去に取り上げる回数も多かったけどたまたまです。
さて、長野はシュタルフ体制二年目で今年こそ悲願のJ2昇格を目指すシーズンを目指します。宮崎は昨季は浮き沈みが激しい中で長野に次ぐ9位でフィニッシュ。Jリーグでの指導経験十分な松田監督を迎えて新たなチーム作りに取り組みます。

両チームのスタメンから見ていきます。

宮崎×長野スタメン

宮崎は松田監督の代名詞でもある4-4-2システム。長野は4バックと3バックを使い分けるチームですが、今回は3バックでスタートしています。

Jリーグ公式では三田がトップの位置に入っていますが、実際は佐藤がトップで三田はシャドーのポジションだと思います。
【公式】宮崎vs長野の試合結果・データ(明治安田生命J3リーグ第1節:2023年3月5日):Jリーグ.jp


長野は守備時の陣形はリトリート時とプレッシング時で使い分けています。リトリート時は5-1-3-1のような陣形を取ります。プレスに行く場合はWBが前に出て、CBがサイドハーフを見るような形になります。サイドにボールが出ると、全体が圧縮し、追い込んで奪うのが狙いです。
前半はこの狙い通りにボールを奪って素早く攻めるという形ができていたと思います。

サイドに追い込んで奪う長野

逆に宮崎は近いゾーンへのパスコースがなくなり、追い込まれて奪われてしまうというシーンが目立ちました。

長野は奪ってからの切り替えが早く、攻撃も同サイドのCBが上がってくるため分厚い攻撃を見せていました。また、ビルドアップ時は左サイドは三田がワイドに張ることが多いですが、右は西村がサイドに出ることは少なく、基本的に船橋が幅を取ります。特に左サイドはIHがサイドに降りてボールを受けに行き、WBが内側からランニングするというのは狙いのようです。先制ゴールのシーン以外にもこの形になるシーンがありました。
と、ここまで書きましたが、長野はあまり自分たちでボールを保持することに重きを置いていなかったようにも見えます。ミドルレンジのボールを当てて、こぼれ球を奪取するか先ほど書いた通りプレッシングで奪ってカウンターというのが狙いでした。

長野の攻撃

前半は長野の方がやりたいことはできていた気がします。

宮崎はサイドに追い込まれる前に、シンプルに橋本に当てて、そのこぼれ球を持ち込む形を狙っていました。
また、長野が圧縮してプレスに来るのを逆手に取って、CB経由で逆サイドに展開できていた時は深さを取ることができていました。特に右から左への展開でゴール付近まで進入することはできていたように思えます。

60分過ぎあたりから長野はラインが下がってきて宮崎が押し込む展開が続きました。
ロングボールだけでなく、地上戦でパスをつなぎながら、長野のアンカー脇のスペースを使って攻め込むシーンも出てくるようになりました。ゴール期待値からもわかるように、後半はかなり攻め込んでいた宮崎ですが、押し込んでいた割にはあまり決定機を作れなかったという印象です。逆に押し込みながら後半はほとんどチャンスらしいチャンスのなかった長野にカウンターを食らって追加点を許しました。

xG推移

長野は一見ボールを保持されて主導権を握られているように見えつつ、そこを狙って隙を突く、狙い通りのフットボールを展開していたように見えました。
試合後の監督のコメントからもわかるように、ある程度守備で耐えつつ、カウンターを狙う体力は温存しながらといった展開は想定内だったのかもしれません。
|トップチーム|AC長野パルセイロ

宮崎は20本のシュートを打ちながら1点も奪えずに終わりました。これは流石に決定力不足(分析のブログであまりこの表現は使いたくないのですが)と言えるでしょう。途中出場の選手が流れを変えたり、ポジティブな要素はあるので、これからに期待したいと思います。

以上

参考
J3 第1節 宮崎 vs 長野のデータ一覧 | SPORTERIA

【簡易分析】2023 J1第1節 柏×G大阪(前半)

いきなりですが、今回の記事からちょっとブログの指向を変えてみようと思います。これからは質より量を重視します。(これまで質が良かったかは置いといて。。。)

個人的な感覚ですが、私の記事作成にはかなりの時間と労力を費やしています。
まだ試合を観る目が培われていないので、1試合全体を結構細かく見ようと思うとそれだけで結構時間がかかります。
更に苦手な言語化作業があり、必要ならシーンに合わせて図を作成するので1試合丸ごと分析しようとすると試合が行われた日からかなり時間がたってしまいます。

素人のサッカー好きが書いた戦術ブログもどきなんて、日の目を浴びることはないのはわかっているのですが、それでもやはり人の目に触れてサッカーの奥深さを共有できれば良いなという思いはあります。そのためにはこのままの更新頻度ではいけないと思いました。

なのでこれまでと少しやり方を変えてみます。
戦術ブログは更新の速さが命だと思います。例えば、どれだけ分析能力に優れていても、今更「3年前のJリーグのあの試合の分析しました」と記事にしたところで誰も覚えていないので。さすがに3年前は極端ですが、「あそこはこういう意図があったんじゃないか」とか、「じゃあ次の試合はどういう風に戦うのか」とか、あーでもないこーでもないと盛り上がるのはやはり数日以内に記事を書く必要があると思いました。
今回から簡易的な分析をして、サクッと記事を書いて更新回数を増やしていくつもりです。前後半に分けて記事を書くことや、ゴールシーンのみの分析を取り入れてみようと思います。

では、前置きを書いていて結局長くなってしまっていますが、本題に入ります。
いよいよ開幕したJリーグのカードから、柏レイソル×ガンバ大阪の試合をサクッと振り返ります。実はJ1の試合はこのブログでは初めて取り上げます。

スターティングメンバーは以下の通りです。

柏×G大阪スタメン

ただし、両チームともに攻守で可変システムを用いていたので、かみ合わせが上記のようになるシーンはないですね。
柏は攻撃時は上記の4-1-2-3ですが、守備時は中盤の構成が変化し4-2-3-1になります。G大阪も攻撃時は4-1-2-3で、守備時は宇佐美を一列上げた4-4-2になります。
柏の保持時は以下のような感じです。

柏保持時の配置かみ合わせ

一方、G大阪保持の場合はこんな感じです。

G大阪保持時のかみ合わせ

柏の攻撃パターンとしては
サイドの三角形がポジションチェンジをしながら崩していく(右サイドは片山が内側にポジションを取る)
立田、片山のフィードに斜めに細谷が走りこむ
という部分が多く見られました。
この両方が組み合わさったプレーが先制ゴールのシーンにつながっていくことになります。

G大阪は基本はボールを保持して後ろからしっかり繋いでいきます。嚙み合わせ的にG大阪インサイドハーフとワントップの鈴木がポジションを変えたりお互いのマークを引っ張ったりしながらスペースを作っていました。
宇佐美と山本が柏のボランチ二人をサイドに引っ張り、中央にできたスペースに鈴木が下りてきて起点を作る、あるいは鈴木が下がった際に引っ張った柏のセンターバックの裏のスペースに山本や宇佐美が走りこむシーンが多く見られました。

G大阪攻撃パターン

前半気になったシーンが一つありました。21:40頃、前線から強度の高いプレスには行っていなかった柏でしたが、このシーンでは小屋松が中途半端に前線に立ち位置を取っているので、GKから楔が入りやすくなっていました。また、本来小屋松が対峙すべきである半田が気になってか、高嶺が降りてきた山本に対して出遅れてしまい、楔が入った瞬間プレッシャーをかけられませんでした。前を向いた山本はドリブルで前進するか、サイドの半田を使うかの2つの選択肢が与えられます。高嶺が食いついてこないのを見て山本は前進しています。柏としては簡単にボールを運ばせてしまっていたので、少し気になったシーンでした。小屋松が前から奪いに行くのであれば後ろも連動してスペースを埋めに行く必要がありました。
こういった守備の立ち位置や連携に関しては、あまり柏で見られなかった4-1-2-3のシステムによる戦い方が徐々に浸透されて改善していくのかなと期待しています。

柏×G大阪 21:40のシーン

柏の先制シーンについても触れたいと思います。片山にボールが入った時点で食野のプレスが少し遅れました。片山はノープレッシャーでG大阪の高めのラインの裏スペースへフィードを送ります。このフィードに反応した細谷が粘ってクロスを上げ、こぼれたところを片山が見事に突き刺しました。このシーンに限った話ではないですが、サイドバックがゴール前のこぼれ球を狙う位置取りをするは柏の一つの形ですね。片山は細谷がクロスを上げるシーンで既にペナルティーアーク付近に走りこんでいます。

柏先制のシーン

前半は柏が1点リードして折り返しました。
柏はサイドの優位性を活かしながらの攻撃を何度か見せ、サイドバックとウイング、インサイドーハーフがポジションを変えながら攻め込む特徴を出せていたと思います。
G大阪もボールを保持しながら攻撃の機会を伺いつつ、インサイドハーフの裏への飛び出しやワントップの鈴木が下りてくるなど、アクションを加えながらボールを引き出す動きが見られました。新監督の色が少しづつ見えた前半でした。

今回の記事では前半のみとします。後半は大きく試合が動いたのでそちらについて解説できればと思います。

以上

【分析】2022-23 プレミアリーグ第20節 マンチェスター・ユナイテッド×マンチェスター・シティ

プライベートが忙しく、半年以上放置してしまっていました。
少し時間が経過しましたが、面白い試合だったので記事にしてみます。が、J3はオフなので例のごとくプレミアを。

今回は第20節注目のカード、マンチェスターダービーです。
共に好調をキープしており、間のFAカップ戦を含めて連勝中のチーム同士の対戦となりました。
スタメンから見ていきましょう。

マンチェスター・ユナイテッド×マンチェスター・シティ

基本的なメンバーは両チーム変わらず。ユナイテッドはエリクセンを一列上げて、フレッジを中盤に入れていきました。

試合は終始シティがボールを保持しながら主導権を握ろうとし、ユナイテッドそれを阻止して縦に速いカウンターを仕掛けるといった構図になりました。

ユナイテッドによるキーマン封じ

ティーの保持時、ユナイテッドはキーマンとなるハーランド、デ・ブライネ、ベルナルド・シウバの3人をマンツーマンでかなりタイトに捕まえにいっていました。ハーランドがそれを嫌がってかなり下がって受けに行くことが多かったですが、ヴァランはハーフウェーラインを越えてもなおマンツーマンを崩さずに付いていくシーンもありました。
ベルナルド・シウバも時折後方のビルドアップに参加しに降りていくことがありますが、基本はカゼミロがマーク。デ・ブライネはフレッジがまさにファイターの形相で潰しに行っていました。中盤の守備的MFにエリクセンではなくフレッジを置いたのは、これらの戦い方からして納得でした。
さらにエリクセンがロドリをマークし、前線は相手の最終ライン4枚に対して3人で縦のパスコースを限定します。基本的な立ち位置はこんな感じで、ショーが余る形が基本形です。

ユナイテッドの守備陣形
回避するシティ

シティの後方でのボール保持時はサイドバックがフリーになることが多くありました。これはユナイテッドのチーム戦術的にサイドバックが下がる+前線の枚数が足りないのでしょうがないのですが、ビルドアップの出口としてウォーカー、カンセロを空けてしまっていました。
シティほどのビルドアップの質の高さを持ってすれば、数的アドバンテージがある中でプレス回避は簡単にできてしまいます。食いついてきたら浮かせてパスを通すなど、高い技術力と判断力が必要なことを最終ラインでも簡単にやってのけます。

ユナイテッドのプレスを回避するシティ

とはいえサイドバックがボールを受けても前線はユナイテッドのタイトなマークに苦しめられ、中々ボックス付近までボールを運ぶまでには至っていなかったのが前半の印象です。後方の枚数はシティよりも優位性を保ち、キーマンの3人に対して潰しにかかったユナイテッドの守備はまずまず機能していたように見えました。

これに対してシティはベルナルド・シウバが下がって後ろ3-2のような形を取ったりと色々駆け引きしていました。ベルナルド・シウバはピッチを幅広く走り回り、マークを引き付けたり、後方のビルドアップに参加したりとシティのビルドアップにアクセントを付けていました。
例えば、22:38のシーンはベルナルドが下がって受けてユナイテッドの前からのプレスを回避。ウォーカーがフリーで受けたところにこの試合初めてマラシアが出ていきました。このズレを見逃さなかったウォーカーはハーランドにパス。そこから本来マラシアに付かれているはずのマフレズがフリーで受けることに成功しています。

ベルナルドのムーブによるシティのずらし
カウンターを狙うユナイテッドの攻撃

シティのネガトラは押し込んだ状況では即時奪回を狙ってボールを囲むように素早くプレスに行きます。これをユナイテッドは逆手にとって、自陣深い位置でのポジトラ時にはほぼほぼダイレクトでフリックするパスを選択していました。シティの中盤が食いついてくるため、これが成功すると一気にチャンスになります。(13:48ごろ)
特にロドリがユナイテッドのDMFに入ったボールに対してかなり前に出て奪いに行くので、ユナイテッドからするとエリクセンがフリーになることが多く、彼が前を向いて受けるシーンが増えるとカウンターのチャンスが生まれていました。後述するように、これがユナイテッドの逆転ゴールに効いてきます。

ユナイテッドのカウンターの狙い
内側を取るシティのサイドバック

危険なエリアまで中々入り込めないシティーは、後半からサイドバックが内側で高いポジションを取る機会が増えました。元々ウォーカーをマークする役割はラッシュフォードですが、ウォーカーが内側に入ってくるため、マークがずれやすくなります。
シティの先制シーンはまさにこの"すれ"を突いた形となりました。ウォーカーとマフレズの動きにより、デ・ブライネのマークについていたフレッジがサイドに引っ張られてマークがずれました。更にウォーカーが内側から外側に向かってランニングすることでスペースを作り、デ・ブライネが危険なエリアでボールを受けることに成功しています。にしてもこのシーン、デ・ブライネのトップスピードでのボールコントロールとクロスはやはり別格だなと思いました。

内から外にランニングしてスペースを作ったウォーカー

先制後も、シティは攻守ともに前からアグレッシブな姿勢は変わらず。ユナイテッドも一貫してカウンターを狙うという構図です。ユナイテッドは先制されたことでややプレスの圧力が増したようにも見えましたが、戦い方は大きく変えてはいません。
前述の通り、シティの守備の穴はロドリの空けたスペース、あるいはロドリがカバーしきれない3列目のスペースにあります。ユナイテッドの同点シーンはまさにこのスペースを突いた形で生まれました。最終ラインを起点にビルドアップを開始するユナイテッドに対し、シティは前から奪いに行く姿勢を見せます。IHが高い位置までプレスに出ましたが剥がされ、ロドリの横でカゼミロがフリーでボールを受けることに成功しました。シティのハイラインの裏には広大なスペースができており、そこに走りこんだブルーノ・フェルナンデスが叩き込みました。
同様に81:30のシーンでも、前向きに奪ったユナイテッドはロドリの横で受けたブルーノ・フェルナンデスが起点となり、途中交代のガルナチョがPAに進入。折り返しをラシュフォードが決めて逆転に成功しました。

シティの戦い方で気になったとすれば、前半も含めてユナイテッドのカウンターで決定機を作られるシーンが何度かあったにもかかわらず、先制後も高いポジションを取り、ハイプレスを実行していたことでしょうか。とはいえ5分で逆転されるとは誰も想像できなかったと思います。勝敗を分けたのは僅かな差でした。

では、気になった選手を挙げて今回も終わります。

アントニー・マルシャル(ユナイテッド:FW)
記事内では一度も取り上げてませんが、ビルドアップをすっ飛ばして前線に繋げる狙いが多かったこの試合で意外だったのは
彼のポストプレーのうまさでした。そこそこ機能していたので前半で交代したのはちょっとびっくりしました。

・ベルナルド・シウバ(シティ:MF)
改めて言うまでもないですが、ボールコントロールのスキルに加えて味方のスペースを作る動きも秀逸で、かつ守備時の運動量も豊富。どこから攻撃を組み立てたらよいか味方に指示しているシーンも目立っていました。

以上

【分析】2022 J3第9節 AC長野パルセイロ vs 松本山雅FC

また期間が空いてしまいましたが、今回は5月15日に行われたAC長野パルセイロ松本山雅FCの試合を分析していきます。
Jリーグ史上初の信州ダービー」という、文字を見るだけでもサッカーファンならワクワクしてしまう舞台です。ちなみに、長野と松本の土地柄的な因縁でいうと明治時代の廃藩置県まで遡るそうで、サッカークラブとしてのAC長野パルセイロ(以下、長野)と松本山雅FC(以下、松本)は北信越リーグ時代からお互いをライバル視する関係だったらしいですね。
両チームの古くからのファン・サポーターは、Jリーグの舞台でこのダービーマッチが観れるという事実に胸が熱くなったことでしょう。こういう熱量のある試合を観ると、「日本にJリーグがあるって素晴らしい!」と思ってしまう筆者です。

試合開始前の時点で松本が2位、長野が5位と、今季ここまで好調な両チームの対戦は、要所におけるデュエルの激しさが、まさに両者譲れないダービーマッチであったことを物語っていました。
試合のハイライトはこちら
www.youtube.com


さて、前置きが長くなりましたが、いつものようにスタメンから確認していきます。

長野×松本スタメン

両チームともに今季は3バックと4バックを併用しています。松本は前節怪我から復帰した安東が今季初スタメンで、パウリーニョとコンビを組みます。長野は本来ウイングのポジションに入ることの多い森川をIH、三田をWBで起用してきました。
このシステムを踏まえて局面ごとに構造を見ていきます。

長野攻撃

長野のセンターバックは相手のプレスがないので比較的容易に持ち上がることができます。そこに松本のSHがプレスをかけに来ると、WBが空くのでサイドで数的優位を作ることができます。松本のSHのプレスのタイミングが鍵で、間に合えば長野は前にボールが送れず、一度後ろに下げることになります(5:46)。後ろから前進する際は、左の秋山は上手く持ち運びが出来ていましたが、右の池ヶ谷はもう少し状況に応じて運んで前進できるとスムーズに攻撃できたかもしれないです(23:44)。
松本のプレスラインが全体的に前がかりになると、後方から対角線上にフィードを送り、深さと幅を取ったWBが高い位置で仕掛けるというのが狙いです(5:53、14:18、21:14)。また、序盤はアンカーの住永は小松にマンマーク気味で付かれており、中々DFラインからパスを引き出せずに苦戦していました(7:48)。GKからの長いボールを敵陣後方のスペース目掛けて放り込む時は、左前方のスペースを狙って、逆サイドから三田が斜めに走りこんでいくのも特徴です(33:09)。

長野攻撃パターン

これは以前の記事でも書いたのですが、長野の攻撃は左サイドに偏りがちです。スタメンの森川、水谷や途中出場のデュークもそうですが、左サイドでクオリティーを発揮する選手が多く在籍しています。フィードの狙いも左奥のスペースが多く、チームとして左サイドの攻略を狙っているように思えました。
長野は上記のような組み立てから、攻撃自体はシンプルにサイドを攻めてクロスというパターンが多かったですが、崩し切って決定的なシーンを迎えることは中々できませんでした。公式サイトのクロス成功率が0%という結果に終わっており、松本に封じ込まれた印象があります。

長野守備

長野は5-3-2でブロックを形成します。構造上、松本のサイドの低い位置に降りていくボランチ(主に安東)にはプレスにはいけないですが、そこは割り切っているように見えました。基本的にはFWの二人は中央で受けようとする松本のボランチ(主にパウリーニョ)を消しながらプレスをかけ、中を閉じてサイドに追いやって奪うのが狙いです。今季シュタルフ監督になってからは一貫している狙いだと思います。10:08のシーンなどはまさに狙い通りに奪いきっています。
長野は一度構えてサイドに誘導する守備はある程度思い通りにできてはいましたが、攻撃から守備に切り替わった際にショートカウンターからフィニッシュに持ち込まれるシーンが多く目立ったのが気になりました。

松本攻撃

最終ラインは3枚+1の形でビルドアップするのが基本系です。また、特徴として、両SHがかなり内側のレーンに立ち、SBが高い位置で幅を取ります。どちらかのサイドにボールがある場合は、ボールサイド側に逆サイドのSHが極端に寄った立ち位置を取ります。ただ、ボール回しのタイミングと方向によってSHが中央に立つか、外に開いて落ちるサポートをするか使い分けているようです。

松本保持時の構造

前述のとおり、松本の攻撃時はSHが内側に入るのが特徴ですが、敵陣まで侵入した際は逆サイドのサポートに入ることもあります。それが顕著に出たシーンが29:16のシーンです。右サイドで前と安東がパス交換する中、左サイドの菊井が右サイドの深い位置までランニングしてパスレシーブします。途中まで菊井には長野の佐藤が付いていましたが、逆サイドまでは付いていくことができず、喜岡がスライドして対応しています。これにより中央で2vs2の局面を作っています。結果としてフィニッシュまでは持ち込めませんでしたが、松本のSHのサポートによる狙いを現わしているシーンでした。

松本29:16(逆サイドまで流れる菊井)

ポジティブトランジション時は中盤で奪ったら素早く前線の2トップに付けます(6:07、7:18、7:55、34:27)。特に前線の横山は動き出しがとても速く、ボールを受け取ったらシュートを打つことを最優先しています。19:14の菊井のシーンもそうですが、松本は個人の力でフィニッシュまで持ち込む力のある選手が揃っています。
この試合はトランジションからのショートカウンターで惜しいシーンを何度か作っていました。素早く前線に送って手数をかけずにフィニッシュに持ち込むという狙いはできていたと思います。ただ、あと一歩という印象でしたが、ゴールは奪えず。ゴール期待値的にも得点が入っていてもおかしくなかった試合でした。

松本守備

攻守問わず松本の中盤は4人が目まぐるしく立ち位置を変えています。基本陣形はあるものの、近い選手が決まった場所に立つようにすれば楽!ということを体現しているようでした。17:38のプレスのシーンではSHの菊井が中央でアンカーをケアして、ボランチパウリーニョがサイドへ出てプレスをかけに行っています。
54:06のカウンターのシーンは安藤がサイドのカバーに行っています。

松本の守備

松本はゴールキックからのビルドアップや、敵陣のPAラインの深さくらいまで相手を押し下げた状態ではプレスを狙いに行きますが、基本的には構えて守備をしていました。自陣のバイタルエリアをコンパクトに保ち、ライン間で受けさせないようにはできていたと思います。ダービーということもあってか、先に失点したくはないという思いがあったのかもしれません。



とここまで戦術とか構造をベースに書いていますが、それ以上に両チームとも球際や競り合いで激しさを見せ、終始熱量を帯びた熱いプレーを楽しませてもらいました。スタジアムの雰囲気も含め、これぞダービーといった試合で非常に満足感のあるスコアレスドローでした。

(今回は長くなってしまったので気になった選手はなしにします)

以上

(参考)
【公式】長野vs松本の試合結果・データ(明治安田生命J3リーグ第9節:2022年5月15日):Jリーグ.jp
松本山雅FC 2022マッチレポート | 5月15日 vs 長野 | データによってサッカーはもっと輝く | Football LAB
J3 第9節 長野 vs 松本のデータ一覧 | SPORTERIA

【分析】2021-22 プレミアリーグ第34節 チェルシー×ウェストハム

J3のオフ期間にプレミアリーグの試合も記事にしており、その記事がきっかけでTwitterでまさかのリクエストをいただきました。嬉しい限りですが、記事が遅くなってしまって非常に申し訳ないです。GWくらいには記事にしたかったのですが、仕事やら私用で忙しくて中々まとまった時間を取れずにいました。
では、4月24日に行われたチェルシー×ウェストハムの試合を分析していきます。

上の2チームが突き抜けている状態の中、チェルシーはCL圏内はほぼ確実。ウェストハムはCL圏内に入るのはかなり厳しく、ミッドウィークのEL準決勝に焦点を当てているといった状況。この試合は同じロンドンを本拠地とするダービーマッチでもありますね。

試合の動画はこちらから
www.youtube.com

ではスターティングメンバーから確認していきます。

スタメン(チェルシー×ウェストハム)

チェルシーは前節のアーセナル戦から4人を入れ替えたスタメンとなっていますが、特にDFラインに怪我人が増えてきています。
ウェストハムはこの試合の後にEL準決勝という大一番を控えるため、レギュラークラスのライスやボーウェンが控えに回りました。

では4つの局面から試合を振り返っていきたいと思います。

チェルシー攻撃

3-4-1-2の形のままビルドアップします。相手が3トップなので、WBも比較的低めの位置でボール回しに参加します。前進パターンはそのWBに当ててボランチが間で受けるか、あるいは左右に揺さぶってから直接ボランチが受けて運ぶパターンがあります。前進役は推進力とスピードに優れるカンテが担います。前半、ウェストハムボランチソーチェクが1つ前にポジションを上げてプレスに参加するため、ノーブルだけが残る形になります。DFラインもそのまま下がるだけなので、カンテは前を向ければ容易にスペースまで運ぶことができていました(21:19、27:18、32:33のシーン)。

チェルシーのビルドアップ・全身パターン

また、チェルシーWBがハマーズのWBを引っ張ってピン止することで、ハマーズのボランチ2枚の横が空きます。ここをマウントやハヴァーツが降りて使うシーンも多く見られました。
チェルシーは表記上はヴェルナーとハヴァーツの2トップですが、サイドに流れることが多く、ボールサイドに流れるマウント、WBと共にサイドで3vs2の局面を作ります。
また、ロフタス・チークが内にポジショニングすることで、ウェストハムの左WBを内側に引き付け、空いたサイドのスペースをハヴァーツが使う場面もありました(13:58, 47:32, 56:32のシーン)。

ハーフレーンに入るロフタス・チーク

サイドを攻略してクロスを入れるシーンでは、逆サイドのWBが必ずエリア内に入ってきます。これは前述のとおりFWの一方がサイドに流れているので、クロスに合わせるターゲットが少なくなってしまうためです。このような攻撃パターンを駆使し、前半は圧倒的にボールを保持してチャンスを作りながらも、中央を固めるウェストハムの守備陣を攻略できず、中々ゴールが生まれないという展開が続きました。
75:19頃にチェルシーは3枚同時替えを実行。中央に構えるルカクの下にマウントとプリシッチが入る形となります。やはりルカクが中央に構えることでゴール前に迫力が出ますね。83:40のPKを獲得したシーンも彼の良さが出たシーンでした。
結局PKは失敗に終わりますが、89:23頃に値千金の決勝ゴールが生まれます。このシーンは、ルカクがDFラインを引っ張ることでマイナスのクロスを入れるスペースを作っています。さらにドーソンの退場によってライスが最終ラインに入ったことで、中盤が2枚になっていたため、ボールを受ける直前プリシッチの周りに大きなスペースができていることがわかります。

チェルシー守備

チェルシーの守備プレッシング

守備は基本的に即時奪回を目指します。前からプレスをかけて高い位置で奪います。中盤も連動して高い位置を取り、チーム全体として前で奪うことに重きを置いてきます。
基本的に陣形はチェルシーも5-2-3の形になるので、中盤にスペースが空きやすくなっています。リトリートした際はボランチの脇のスペースを使われるシーンも見られました。
ボールサイドに圧縮するので、サイドを変えられたり左右に揺さぶられると前線のスライドが間に合わない場合があります。54:45ではマウントが逆サイドに寄っていてできたスペースをクレスウェルに使われて前進されています。

ウェストハム攻撃

ウェストハムの攻撃

ウェストハムはトップの位置に入るフォルナルスが中盤まで必ず降りてきて組み立てのサポート役になります。レギュラーFWのアントニオはポストワークに優れるタイプで、背負って受けるのを得意としていますが、かなり役割は異なります。フォルナルスが落ちると中央の枚数が減るため、ソーチェクがPA内まで入ってきてクロスのターゲットになります。
前線で基準点となるのはヤルモレンコで、彼がポストで受けるシーンが多くありました。チェルシー守備陣のCB-CB間から斜めのランニングで背後を取れると攻撃の幅が広がり、チャンスも作れているように見えました。69:02ではツォウファルが開いて受けてWBを引っ張り出し、フォルナルスが右に流れることでアスピリクエタも引っ張ってアスピリクエタとシウバの間のスペースをヤルモレンコが突いてフィニッシュまで持ち込んでいます。
ウェストハムはカウンターをベースに惜しいシーンも何度かありましたが、ゴールを奪うことはできませんでした。

ウェストハム守備

基本的にリトリートしてブロックを作ります。チェルシーの後ろ3枚に対して前3枚が対応しますがプレスラインは低めです。ボランチと前3枚でチェルシーボランチを挟む立ち位置を取ります(0:52)。前線の3人は守備プレスに行かず、パスコースも切れていません。外を経由されて中で起点を作られるシーンが目立ちました。21:20も簡単に揺さぶられてカンテに通されて前を向かれています。
ボランチ2枚はチェルシーボランチが下がっていってもついて行かず、ツォウファルが距離詰めながら少し前に出るくらいです。前述のとおり、このボランチの両脇のスペースを使われて攻め込まれるシーンが多くありました。
ある程度サイドを突破されますが、中央を固めて粘り強く守っていました。終盤は退場者が出て人がいなくなった部分を攻め込まれ、得点を許してしまいました。ELに向けてメンバーを温存していた中でチェルシー相手に引き分けも狙える状況だったので、あと一歩で勝ち点を逃してしまったのは痛かったでしょう。

では、気になった選手を挙げて今回も終わります。

・エンゴロ・カンテ(チェルシー:MF)
ピッチを所狭しと走り回る汗かき役。守備での貢献度が高いのは間違いないのですが、攻撃でも彼のスピードに乗ったボール運びは、守る側からすると厄介だと思います。今季はそこまで調子が良くないとか何かの記事で読みましたが、この試合でははつらつとしたプレーを見せていました。

・パブロ・フォルナルス(ウェストハム:MF)
スペイン人らしくボールを触ってリズムを作るタイプなので、中盤の間で受けて前を向いたり、時には最終ライン近くまで降りてプレーしていました。器用な選手で、前線のポジションはどこでもそつなくこなします。技術に優れながらも献身性が高く、チームのためにプレーできる良い選手だなと思いました。

※図の表記でハヴァーツとハフェルツの表記ゆれがありました。すみません。

以上