サッカーの戦術の話

個人的に気になったサッカー主にJ1,J3,プレミアの試合を分析します。

【プレビュー】東京五輪3位決定戦 日本vsメキシコ

東京五輪企画第二弾です。

惜しくも準々決勝でスペインに敗れた日本代表。優勝という目標は達成できませんでしたが、53年振りのメダルを賭けて3位決定戦に臨みます。

3位決定戦の相手はGLでも対戦したメキシコです。

事前情報

これまでの戦績

日本:3勝1分1敗

メキシコ:2勝2分1敗

PK戦は引き分けにカウント

出場停止

日本:なし

メキシコ:なし

 

予想スタメン

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日本×メキシコ予想スタメン

GLでの対戦同様、日本は前からのプレッシングを重視すると予想します。となると1トップにハマるのは林になります。CBは冨安が出場停止から復帰。今回も攻撃は久保と堂安の出来に左右される部分は多いでしょう。

メキシコはチームのエース格である10番のライネスをGL3戦目以降はスタメンから外し、代わりに15番のアントゥナが入るのが基本となります。これがメキシコの攻撃に結構大きな変化を生んでいて、ライネスは足元でボールを受けて自分で仕掛けたがる選手ですが、アントゥナは味方に連動して動きながらボールを呼び込むタイプです。GLの対戦では中山がライネスを封じていましたが、アントゥナはタイプの異なる選手なので、前回対戦と同じとは思わない方が良いです。

では、準々決勝の韓国戦を参考にメキシコのフットボールの特徴を書いていきます。

メキシコの特徴

メキシコの特徴は何といっても攻守両面におけるトランジションの速さにあります。

前線でボールを失った場合はボールを起点にプレスをかけ、即時奪回を目指します。ポジティブ・トランジションにおいても、奪ったその瞬間に4~5人が一斉に全力で追い越していきます。日本としてはこの切り替えの速さに集中して対応していきたいところです。

メキシコはある程度ボールを保持したがるチームですが、近い距離で繋いで前進するというよりは、CBから中距離のパスを前線に送り、一気に圧力をかけて押し込む攻撃が多いです。

最終ラインのビルドアップ時は2トップのプレスを回避するために16がCB間に降りてきて、(メキシコ代表なのであえて使うと)サリーダ・ラポルピアーナで数的優位を作ります。

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メキシコのビルドアップの形

このあたり日本は久保を一列上げて2トップでプレスに行くか、1枚でプレスに行くかによってメキシコの形も変わってきそうです。また、一つ特徴としては7番のロモは攻撃時には最前線へ顔を出し、攻撃に厚みを加えています。

個人的にはボールサイドに頻繁に顔を出しながらリズムを作り、正確な左足のキックを持つ17番のコルドバのプレーにも注目しています。

対角線のクロスとロモの飛び出しに注意

攻撃の最終局面では、ボールを受けたウイングが切り返して逆足で対角線を狙ったクロスを入れてくることが多いです。この対角線のボールに2列目から上がってくる7番のロモと9番のマルティンが絡んできます。ウイングが上げきれないときはSBに下げて、角度を付けてクロスを入れてきます。

メキシコはフィニッシュに繋がる局面以外でも逆サイドというのをかなり意識して攻撃をしているように思えました。カウンターでサイドにボールが出ると守備側はどうしてもボールサイドに意識が向きがちになるので、気を付けたいところです。

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メキシコの攻撃パターン

まさに韓国戦の2点目は11番ベガからの斜めのボールを走りこんだ7番ロモが受ける形でした。ベガがルックアップした瞬間にロモは動き出し、韓国のCBとSBの間のスペースでうまくボールを受けています。日本として警戒しておきたい人物です。

モンテスのビルドアップを狙え

メキシコのビルドアップでは3番のモンテスがボールを持つシーンが数回ありましたが、効果的な楔のパスをいれることはできていませんでした。前を向いてからの判断が遅く、韓国に寄せられて奪われ、カウンターを受けたシーンもありました。

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メキシコのビルドアップミス

日本としてはここは一つの狙いどころです。実はGLで対戦した際にもモンテスがプレスのきつい場所へのパスを選択して日本に奪われ、2点目に繋がるPKを献上しています(おまけにPK与えてしまったのもモンテス)。日本としてはここへのプレスのかけ方などを共有して、最前線の選手と2列目の選手で連動して奪い取りたいところです。

スペイン戦でも2CBに対して林一枚でプレス対応していた時はどちらかが空く形になっていました。メキシコ戦ではモンテスを空けるように右側から中を切るようにプレスに行くのではないでしょうか。

まとめ

とにかくメキシコのハイテンションサッカーに付いていく。そして中盤からの飛び出しと対角線のボールに注意する。前からのプレスで奪いにいく。このあたりがポイントになってくると思います。

53年前に日本がサッカーで初めてオリンピックメダルを獲得した際の相手もメキシコでした。何か運命的な巡り合わせを感じますが、9年前のロンドン五輪であと一歩届かなかったメダルを何としても獲得してほしいと思います。

注目の3位決定戦は8/6(土)18:00キックオフです。

 

女子サッカー決勝のキックオフ日時変更に伴い、何故か男子サッカーまで開催が前倒しになったため18:00キックオフに変更となりました。

 

 

【プレビュー】東京五輪準々決勝 日本vsニュージーランド

J3戦術ブログとして始めたこのブログですが、一般的に注目度の高い試合も扱ってみようと思います。

ちょうど東京五輪が盛り上がっている時期なので、サッカー男子の準々決勝、日本vsニュージーランドのプレビューをしてみたいと思います。

事前情報

GL成績

日本:3勝0分0敗(1位通過)

ニュージーランド:1勝1分1敗(2位通過)

出場停止

日本:酒井宏樹(2)

ニュージーランド:スタメニッチ(10)

予想スタメン

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予想スタメン

日本はオーバーエイジの酒井が出場停止のため、右SBには橋岡が今大会初先発となる見込みです。フランス戦で55分から出場していますが、これはよほどのことがない限り「次戦のために使うぞ」といった森保監督からのメッセージだと考えられます。冨安を右サイドに回して板倉を使う手もありますが、日本最強のCBをわざわざ右で使うようなことはしないでしょう。

FWはフランス戦で休養となった林と予想しましたが、そのフランス戦でまずまず良い動きを見せていた上田のスタメンも十分考えられます。

ニュージーランドは、最終戦ルーマニア戦では4バックを採用していましたが、おそらく日本戦では5バックで守備的に戦うと思います。ベースは韓国戦、ホンジュラス戦のスタメンです。10番のスタメニッチが累積警告で出場停止ですが、さほど影響はないでしょう。

では、グループリーグの試合内容から、ニュージーランドの攻守の特徴について触れていきたいと思います。

ニュージーランドの特徴

守備時は5バックで5-4-1のラインを形成、リトリートしてブロックを敷いてきます。受け身になっても3人のCBが集中してゴール前でブロックします。韓国戦でも攻め込まれる時間が多かったですが、2番のリードを中心に良く守っていました。

また、プレスラインはそれほど高くないので、比較的日本は自由にボールを回せると予想できます。

攻撃時は、ボールを持ったらまずサイドのスペースにフィードを考えます。そこにシャドーの12番マコワットや7番ジャスト、あるいは9番ウッドが流れて受け、起点となります。韓国戦ではCBから逆サイドへのサイドチェンジも多く見られました。とにかくサイドから攻めてくる回数が多いです。

また、フィード以外の選択肢としてはWBとシャドーのコンビネーションで崩すパターンがあります。ルーマニア戦は相手に5バックで引かれてスペースを埋められていたため、このパターンの攻撃が多かったです(と言っても時間の都合でルーマニア戦は最初の30分しか見ていませんが)。ニュージーランドは縦への推進力があるチームで、パス&ゴーの意識が高い印象でした。特に3番のカカーチェはスピードもあり、かなりの割合で攻撃に絡んできます。質の高いクロスも兼備しているため、日本にとっては注意したい選手です。

ボランチを釣り出して中盤を攻略せよ

前述のようにニュージーランドは5-4-1でブロックを形成してくることが予想されます。日本と同じ4-2-3-1システムの韓国とのマークの噛み合わせは以下のような感じです(面倒なので韓国側の選手名は省略)。

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ニュージーランドと韓国のマーク噛み合わせ

相手のFWとトップ下に対してはCB3枚で対応、WBが下がってSHを見る、ボランチはそのまま相手ボランチを見る、SBに対してシャドーが対応、ボールを持つCBに対して1トップがプレスに行く、といった形です。これは日本戦でも変わらないでしょう。

攻撃側はこの5-4の守備ブロックの内側に侵入していく必要があります。このままの状態ではスペースがなく、ブロック内にボールを入れてもすぐにプレスを受けてしまいます。

では、韓国がいい形で攻め込んだシーンからニュージーランドの守備ブロックの攻略法を考えてみます。

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5-4のライン間のスペースを作る動き

21:17頃のシーンです。韓国のCBがボールを持った時、韓国15番の選手が最終ラインまで下りる動きを見せます。するとニュージーランドの6番ルイスが釣られてついていきます。これにより5-4の4のラインが3枚になります。中盤が3枚になることで選手同士の距離間が空き、スペースが生まれます。ここに韓国のサイドハーフの7番の選手が入ってボールを受けることでチャンスに繋げていました。

66:40頃にも1人降りて相手を引きつけ、中盤4枚を動かしてライン間で受けるシーンがありました。

日本も何らかのアクションで相手のボランチを釣り出し、中盤のスペースを有効に使用できれば、チャンスの回数も増えるでしょう。

ウイングバックの裏を突け

前述しましたが、ニュージーランドの左ウイングバックの3番カカーチェは走力とスピード、更に高精度クロスを備えた非常に怖い選手です。カカーチェの持ち味はその攻撃力ですが、高い位置を取ることが多い選手なので、ニュージーランドのネガティブトランジション時には大きなスペースができます。

日本は奪って速い攻めを仕掛ける際は、このサイドを突けるかどうかが一つのポイントになるかもしれません。

余談ですが、このカカーチェの所属は日本でもおなじみのシントトロイデンです。なのでマッチアップする橋岡とはチームメイトということになります。(小ネタが好きな民法のサッカー中継ではおそらくこの「チームメイト対決」には触れてくるでしょう)

ウッドを止めろ

最後のポイントはニュージーランドの要注意FWを抑えられるかどうかです。

9番のクリス・ウッドはオーバーエイジでこのチームに参加しており、A代表でも絶対的なエースとして君臨しています。現在プレミアリーグで4シーズン連続2桁ゴール達成中と、日本のレジェンドである香川真司本田圭佑よりも欧州での実績は上と言えるでしょう。この東京五輪でも韓国、ホンジュラス相手にそれぞれ1得点と、実績に違わぬ結果を残しています。

両足のシュート技術の高さ、191㎝の身長を生かしたヘッドと多彩なゴールパターンを持ち、エリア内で彼にボールが渡ると非常に厄介になことになります。

フランス戦でジニャクを抑えた今の日本の守備陣なら大丈夫だとは思いますが、実績十分のストライカーがいるということは注意したいポイントになります。

 

まとめ

色々と書きましたが、実力は日本の方が上だと思います。普通にやれば勝てる相手です。

攻めきれない焦りから前のめりになって、カウンターで失点というようなことだけはないようにしてもらいたいです。油断せずに試合に入り、手堅く勝利を収めたいところ。

注目の準々決勝は7/31(土)18:00キックオフです。

【分析】2021 J3第11節 カターレ富山 vs ロアッソ熊本

第二回目の分析は2021年6月13日(日)に行われた明治安田生命J3リーグ第11節 カターレ富山ロアッソ熊本です。

 

試合開始前の時点でカターレ富山(以下、富山)が首位、ロアッソ熊本(以下、熊本)が5位ということで上位対決となりました。

通算成績は富山の2勝10敗5分で、富山からするとかなり相性の悪い相手と言えます。

 

スターティングメンバーから確認します。

両チーム共に3-3-2-2システムを採用してきました。

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スタメン(富山-熊本)

同じシステム同士ということでミラーゲームとなりますが、両チームの攻守におけるポジショニングはかなり異なる形でした。今回はその辺りを詳しく見ていきます。

 

富山の攻撃パターン

富山の攻撃は結構シンプルで、最終ラインからのロングフィードを9大野が収めて付近を動く10花井や22椎名、7佐々木などが絡んで崩すことが多かったです。この9大野は相手DFを背負ってのポストプレーが非常に上手く、富山の攻撃の時間を作れる選手です。リーグ全体での敵陣空中戦ポイントで4位(7/5現在)を誇る屈強なFWのポストプレーは富山のストロングポイントと言えます。

また10花井もテクニックがあり、足元の技術でボールをキープできる選手です。富山は空中戦でも地上戦でも時間が作れるこの二人が組み立てのキーマンとなりそうです。

もう一点、富山の攻撃の強みは10花井の正確なセットプレーです。先制ゴールのシーン以外にも17:13付近のセットプレーでも非常に質の高いボールを供給しています。

9大野のポストで相手を背にしてファウルを貰い、10花井が正確なボールでアシストするというのもパターンの1つと言えます。

ポジショナルな熊本の可変システム 

一方、敵陣ポゼッション率がリーグ全体で1位を誇る熊本は、データの通りボール保持の時間を高めながら崩していくことが狙いです。

攻撃時の熊本は4-4-1-1に近い陣形を取っていました。左WBの7岩下が降りて後ろを4枚にし、2列目の19東出と18杉山がサイドに出て幅を取ります。さらに、右WBの8上村が中に絞って6河原とダブルボランチのような形を取るのが基本形です。

この際、8上村を見る役割の富山の7佐々木は引っ張られて中に入ってくるため、2黒木の前のスペースが空いています。ここをうまく利用して前進するシーンも見受けられました。

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熊本の可変システム

ただし、8上村はボランチに入るだけでなく、39:03付近、52:32付近のシーンなど、右サイドのハーフレーンで2黒木がボールを保持する場合に受け手として幅を取る役割を担う事もあります。臨機応変なポジショニングによって熊本の攻撃をスムーズに回している印象でした。

また、左サイドで幅を取る役割も、ボールの回し方によって変化をつけています。

例えば、右サイドでのボール保持時、CB経由で大外を周って左サイドに展開する場合は上記のように7岩下が一列下がって幅を取ります。

同じく右サイドでの保持時、ハーフウェイラインより前方まで進んでそこから中央を経由して左に展開するパターンでは、7岩下が中央に絞ったポジションを取り、19東出はワイドに開いた位置をスタートポジションとしています。

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7岩下の動き

状況に応じて適切なポジショニングをとり、スペースを有効活用する。熊本はポジショナルなフットボールを展開していると言えるでしょう。

ボールサイドへの富山のプレッシング

熊本のビルドアップに対して富山はボールサイドに人を集めて奪う狙いを見せていました。9:36付近のシーンでは、熊本が自陣右サイドでボールキープしていますが、富山の中盤より前の選手は左に圧縮してポジションを取っています。

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9:36 富山のプレッシング

圧縮したプレッシングは逆サイドに大きなスペースを空けてしまいます。これは11人でスペースを埋めるというフットボールの構造上、どうしても生じてしまう現象なので、空いたスペースに対してどう対処するかがカギになります。

リトリート時の富山の守備の狙い

富山は同サイドへのプレッシングからの奪取は一つの狙いとしていますが、上記のようにセンターバックを経由して逆サイドへ展開された場合、あるいは最終ラインでのビルドアップに対応する場合は一度引いてセットした守備を見せていました。富山のファーストディフェンダーは相手CBに対しては逆サイドへのコースを限定するくらいで、奪いにいくプレスをかけることはしません。

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50:53 サイドに入った時の富山の守備

熊本のビルドアップからの攻撃に対しての富山の狙いはサイドで奪うことですので、CBからのサイドへのパスを遮断するような動きはなく、むしろそのパスは許容し、サイドに出てから前を向かせないような守備で対応していました。これはある程度狙い通りにできていたと思います。

6河原をフリーにする富山

1点、富山の守備で気になるポイントを上げるとすれば熊本の6河原をフリーにさせすぎていた点です。

展開力や判断力に優れるこのアンカーは、熊本のビルドアップ時に度々フリーになってボールを受けていました。見ていて不自然なくらいに6河原はフリーになるシーンが多かったので、富山はわざとフリーにしているのかと思ったくらいですが、熊本のチャンスはほとんどがこのフリーの6河原を経由して生まれていたのを考えると、わざとフリーにしているとは考えられませんでした。

 

前述のように、富山が一方のサイドに圧縮してできたスペースを熊本は有効に使いたいはずです。そこでこのフリーの6河原を経由して逆サイドに展開されるケースが多くありました。富山は熊本のセンターバックがボールを持った時に10花井か9大野がプレスにいきますが、6河原へのパスコースを切らないままプレスにいくため、度々ここがフリーになっていました。

後半割と早めの時間帯で2トップを二人共交代しているのは、その辺りを修正したかったのかもしれません(これはあくまで個人的な予想ですが)。

70分を過ぎるくらいで、富山のDFラインが押し上げられなくなり中盤にスペースが生まれるようになると、熊本は6河原を経由せずともサイドの高い位置まで楽にボールを運べるようになります。

このあたりから熊本が押し込む展開が続き、78分には右サイドの高い位置まで簡単に運び、18杉山がマイナスのクロスを上げてペナルティーエリアやや後方で待ち構えていた7岩下がダイレクトでシュートを放ち、熊本が同点に追いつきました。

 

まとめ

富山は早い時間に先制したことにより、落ち着いて守備に入ることができたと思います。試合は終始熊本がボールを保持する展開が続き、熊本が主導権を握っているように見えましたが、富山は要所を抑えて決定機を作らせませんでした。

終盤は富山のDFラインが下がり、深い位置まで熊本がボールを運べるようになってから同点弾が生まれ、1-1のドローという結果になりました。

システムは同じですが、両チームのコンセプトの違いが明確に分かる面白いゲームでした。

 

最後に両チームのポイントと個人的に気になった選手を挙げて、今回の試合分析は終わりたいと思います。

富山

  • 攻撃は素早く前線に預け、9大野のポストや10花井の個人技で時間を作り、追い越してくる2列目以降の選手とのコンビで崩す。
  • 守備はサイドへ圧縮したプレスを見せる。

熊本

  • 自分達でアクションを起こす。ボールを保持してリズムを作るチーム。
  • 可変システムでスペースを有効利用。マークを混乱させる。

 

個人的に気になった選手

  • 大野耀平(富山FW):とにかくポストが上手い。後半早い時間で交代するまで殆どのポストプレーに成功していた。空中戦の強さもあるが、地上でのキープ力もある。
  • 河原創(熊本MF):小柄ながら対人に強く、攻撃では正確な技術と判断力で起点となるチームの中心選手。大卒2年目でキャプテンを任され、チームからも信頼されている証拠。上のカテゴリーでプレーするポテンシャルは十分にある。

 

以上

 

【分析】2021 J3第8節 Y.S.C.C.横浜 vs テゲバジャーロ宮崎

第一回の試合分析は2021年5月16日(日)に行われた明治安田生命J3リーグ第8節 Y.S.C.C.横浜テゲバジャーロ宮崎です。

 

第7節を終えた段階でホームのY.S.C.C.横浜(以下、YS横浜)は勝ち無しの14位と苦しい状況が続きます。
一方のテゲバジャーロ宮崎(以下、宮崎)はここまで4勝の4位と、昇格組として健闘しています。

スターティングメンバーから確認します。
YS横浜は中盤ダイヤモンドの4-4-2、宮崎は中盤フラットな4-4-2です。

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スタメン(YS-宮崎)

私もそれなりにフットボールの試合を見てきていますが、中盤がダイヤモンドのシステムを使うチームは最近ではあまり見たことがありません(04-05のACミランが中盤ダイアモンドだった気が…)。ボランチが一枚では守備に不安がありそうですが、その辺りをチームとしてどうカバーしているのかにも注目したいと思います。

(試合のスタッツはこちら)

【公式】YS横浜vs宮崎の試合結果・データ(明治安田生命J3リーグ第8節:2021年5月16日):Jリーグ.jp

 

ビルドアップにおける両チームの特徴

両チーム共にショートパスを繋いで攻めることを基本としている戦術ですが、パスのテンポと縦へのスピード感には差がありました。

YS横浜のビルドアップは後ろからゆっくり繋いで前進していくという狙いです。無理に長いボールを入れたり、リスクを負った選択はせず、丁寧に繋いでいきます。

エリア間のパス図を見ると顕著ですが、最終ラインでの横向きのパス、中盤から後ろ向きのパスが目立ちます。アタッキングエリアでのパスが極端に少ないことが読み取れます。

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エリア間パス図(YS横浜)

一方の宮崎も後ろから繋いでいくというコンセプトは同じですが、より手数をかけずに縦に速い攻撃を目指している印象を受けました。

こちらもデータを見ると、YS横浜よりもパスの数は少ないですが、アタッキングエリアへ効果的にボールを運ぶことが出来ています。

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エリア間パス図(宮崎)

ここまで見てわかるように、YS横浜はリスクを回避したゆっくりとしたパスサッカー、宮崎はハイテンポのパスサッカーを展開しています。

では、実際にこの戦術がどのような効果をもたらしていたかを見ていきます。

YS横浜の遅攻とサイドで捕まえる宮崎

YS横浜の自陣でのビルドアップ時の最終ラインは3枚。3宗近が左に、5池ヶ谷が中央、23船橋が右に入って、左サイドバックの33一宮が一列前へ上がります。最終ラインの3枚に4土舘が絡んで組み立てる形です。

ただし、これ以外にも3+1の形で可変でビルドアップしています。
3宗近、5池ヶ谷、33一宮の3枚で回す形や、後半になると4土舘がCBの間に落ちる形(その場合は8吉田が+1の役割)も増えました。

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YS横浜ビルドアップ

可変的なビルドアップで相手のマークを錯乱させる狙いがあると思いますが、この試合ではあまり効果的とは思えませんでした。

YS横浜のビルドアップ時、宮崎は一度セットして4-4-2のブロックを作ります。中央を固めて、両CBに対しては向きを制限するような形でプレスをかけてサイドに追いやっていきます。これはYS横浜のビルドアップの形式によらず、サイドに出た瞬間を狙ってプレスの強度を上げ、ボールを回収する狙いがありました。宮崎はこの守備時の連携が良く、サイドに追い込んで回収という狙いをたびたび成功させていました。

YS横浜はサイドにボールが入った際に追いやられる形となり、手詰まりになってしまっていました。それでも一貫してパスを繋いで前進する姿勢を貫いていたので、チームコンセプトとしては選手間で意識の統一はされているのだと思います。

ビルドアップと個人技術

YS横浜はビルドアップ時にスペースがある場合は、3宗近がドリブルで持ち上がる場合が多く見られました。ただし、対面する相手を外して運ぶ技術は5池ヶ谷の方が上で(40:28付近、63:24付近のシーン)相手を一つ外して前に運べるため、5池ヶ谷が持ち上がるシーン方が結果的にチャンスを生み出していました。

これはもしかすると宮崎もリサーチ済みで、あえて左側からプレスをかけ、3宗近をフリーにし、5池ヶ谷に運ばせることを防いでいたのかもしてません(そこまで考えていたかどうかは不明ですが)。

宮崎のダイレクトプレー

前述のとおり、宮崎もボールを後ろから繋いでいくスタイルですが、ボール保持率を高めて主導権を握るというよりは、テンポよく短いパスを繋いで縦へ縦へ攻めていくというチームです。チーム全体の技術も高く、ダイレクトプレーやワンツーを使ってチャンスを作ったシーンが多くありました。

チームのスタイルを象徴するかのようなシーンが1点目のゴールシーンになります。

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1点目のシーン

セカンドボールを拾った7千布が21大熊へ預けると、21大熊→18渡邊→17前田→25梅田と全てダイレクトで繋ぎ、ハーフスペースに侵入してきた18渡邊が再度ボールを受け、3宗近をかわして見事なシュートを決めました。

また、このシーン以外にも後述の23:18付近のシーンなど、主に左サイドからコンビネーションで崩していく機会が多く、宮崎の攻撃のストロングポイントになっています。

先制ゴールのシーンからもわかるように、宮崎は縦への意識とハイテンポを実現させる確かな技術を持ったチームと言えるでしょう。

後手に回るYS横浜の守備

この先制点のシーン、YS横浜もプレスをかけにいってはいますが、相手選手がボールを受けてから動き出しており、後手に回ってしまっていました。

相手に対して正面から付いて行って、ギリギリのところまで食い付けられてから剥がされるというのは、体の方向とスピードの面からしてかなり不利な状況に陥ります。

YS横浜はネガティブトランジション時には比較的速めにプレスをかけて奪い返しに行くスタイルのチームですが、プレスががはまらずに前進されてしまう場面はこの得点シーン以外にも多く見受けられました。

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YS横浜の守備

23:18付近のシーンですが、3井原と33代に対してYS横浜のツートップがプレスをかけに行きます。大外の21大熊にボールが入った時、10柳が寄せていますが、出だしが遅く、食い付かされてからボールを出されてしまっています。23船橋が18渡邊に寄せている場面も同様です。

このようなプレスのズレはツートップと2列目の連動ができていないことが要因の一つです。というか、YS横浜はボールの取り所が定まっておらず、むやみやたらとボールを追いかけているような印象でした。守備における強度と洗練度は宮崎の方が上だったように思えます。

また、このシーンでは冒頭で触れたボランチ脇のスペースを使われて前進されています。YS横浜のシステムの都合上、サイドハーフが相手サイドバックに対してプレスをかけに行くと、アンカー脇のスペースが空いてしまいます。このスペースを捨ててまでサイドバックに対してプレスに行っていますが、連動制に乏しいため宮崎のサイドバックに自由を与えてしまい、結果としてアンカー脇スペースを再三に突かれて前進されていた印象です。
もしサイドにプレスをかけに行く場合は、このスペースはボランチの4土舘と逆サイドのサイドハーフがスライドして埋めることが理想だと個人的には思いますが、この試合はあまりそういった動きはありませんでした。

守備時に8吉田は右サイドまで流れてくることもありましたが、マンマーク気味に着いている中でのプレーで、スペースを埋めるような意識は低いのかと思いました。

7神田の投入

試合全体としてYS横浜のチャンスは少なかったですが、後方からのカウンターでダイレクトプレーが成功した際は、ゴール前までボールを運んでくシーンが何度かありました。しかし、チームとしてフィニッシュの意識が低く、前半ほとんどシュートを打てなかったのは気になりました。

今一つ相手に脅威を与えることができない中、YS横浜は58分に7神田を投入します。この7神田は技術力に優れ、後半からの出場でチーム最多の3本のシュートを打ってチームを活性化させていた印象です。

この試合とは直接関係ありませんが、7神田は9節以降でスタメン出場した3試合全てチームが勝利しており(12節終了時点)、攻撃的なチームにおいて影響度が高い選手と言えそうです。

 

 

 まとめ

なんだかYS横浜のダメ出しが多くなってしまいましたが、相手が洗練されたサッカーを見せていた宮崎だったので苦戦していた点もあります。とはいえ多くの部分で相手を上回った宮崎が終始試合を支配していました。順位通りの結果になった、というのが率直な感想です。

両チームのポイントと個人的に気になった選手を挙げて、今回の試合分析は終わりたいと思います。

 

両チームのポイント

YS横浜

  • 後ろから丁寧に繋いで攻めあがっていくスタイルだが、パスのテンポが上がらずポゼッションからチャンスが作れなかった
  • 守備時のFWと二列目以降のプレスの連動性には改善の余地あり

宮崎

  • 攻撃はテンポ良く縦に速くを実践してゴールを奪う
  • 奪われた際はセットして守備、サイドに追い込んで奪う狙いが実践できていた

 

個人的に気になった選手

  • 神田夢実(YS横浜):技術力に優れ、攻撃にアクセントを加えるプレーヤー。スタメンで使った方が良いと思いました。
  • 植田峻佑(宮崎):守備で目立ったシーンは多くありませんでしたが、素晴らしいフィードを何本か見せていました。あの足元の技術は上のカテゴリーでも通用しそう。

 

以上